『土から考える松の司』 〜第5話
〜プロローグ〜
これまで自分たちが造っている松の司というお酒について、そこに貫通する“味わい”や“松の司らしさ”といったものを肌感覚で分かってはいても、あまりはっきりとした言葉で表現して来れなかったように思います。
それらを完全無欠の言葉で表現するのは難しいですし、おそらく不可能だとは思うのですが、松の司というお酒を構成するいくつかの要素を深く掘り下げることで、そこに宿る輪郭や独特の空気感をお伝え出来るのではないか?そんな思いからスタートした『○○から考える松の司』。
前回の『水』に続き今回は『土』について掘り下げるべく、「土壌別仕込シリーズ」を軸に当蔵の石田杜氏へのインタビューを行いました。その模様を5話に渡りお届けします。どうぞお楽しみください。
複雑なもの
ーー最後になるんですが、これからこの竜王の土地の『土』っていうものについて、どんな風に見つめて行こうと思ってますか?
石田
土地を表現するってホントはもっと複雑で、その一つ一つのファクターが何たるかを知りたいわけやん。
ーーはい。
石田
んで、竜王ってとこに限らず畑がある、田んぼがあるっていうのは・・・、田んぼはもうただの土じゃ無くて、ここに入植して来て、湿原を耕して、ずっとここに住んできてやっと米を、やっとその生業としてずっと続いての、やっとやん。
東条とか粘土粘土て言うけど、あそこなんかもうとてつもなく古い栽培地なんやな。だから意志が伝わんねん。
ーーうーん、意志ですか。
石田
人と土地の接触っていうのは、対話って言い方も出来るけど、ずっと何千年も対話してるからそこに文化があったり歴史があったりっていうことやん。それはさぁ、単純じゃ無いやん。
ーーはい。
石田
例えば砂か粘土かで言えるほどそんなシンプルじゃ無いし。日本酒の、個人的に一番問題を感じるのは、やっぱりシンプルなんやな、何か。
米を使ってて、日本の文化の中で日本人の信心のために・・・日本の信心の大元は天体なんやけど、まぁアマテラスとか、そこを元にするくらいのことから始まってんのに、造ってんのはもっと無機質なもんをクラフトとして熱心に目指そうとしてるやん。
ーーシンプルっていうのはすごく表面的な、技術的なことに終始してるってことですか?
石田
ファクターを絞り過ぎかな。米1種類、水1種類、酵母まで1種類、もやし(=麹菌)も1種類で。土壌っていうのは複雑多様やん。そんな砂、粘土だけで言われへんやん。だからといって言葉に落とせるもんでも無いし。太陽、気候なんてのもそうやん。だけど自分は仕事としてそれを形に落として行かなあかんから。
複雑なことを綺麗にシンプルに見えるようにして、複雑なものを造らなアカンねんけど。複雑なことをただシンプルになってしまったら・・・、ただただ“アルコール水”になって行くわけやん。
地図のゴール
石田
だけどその(複雑性を造る)比較要素っていうのは、砂、粘土、あともう少し違うファクターがあるかも知らん。で、それを知った上で、ここの会社の人が、ここの地域の人が、造ってる人がどんなもん飲んで来て、どんなもん食べて来て、こういうもんを造りたいっていう地図のゴールを見付けたら、そこへ向かうのに車使うのが良いんか?自転車なんか?歩くんか?が見えるやん。でも現時点でそれが見えてへんくてさ、とりあえずみんなと同じように車乗りましょう、国道使いましょうってナンセンスじゃない?
ーーええ。
石田
もしかしたらブレンドとかが良いんかも知らんよ。でもブレンドして何がし混ぜたらエエんかっていうんじゃ無くて。それも蔵元の1代か2代でしようとは思わへんけど、ここの人が、ある種好んでこれが飲みたいって強く思った上でのゴールがあって・・・。それに対して「粘土メインやなぁ」とか、そこへ繋がるのに「この要素があったらエエなぁ」「熟成がたくさんあった方がエエなぁ」とかっていうのが見付かったら、それが誰も飲んだこと無い感じにはなるやろうと思うけどなぁ。
石田
それがブレンドじゃ無くっても、とにかくエネルギー感を高める状態が大事で、それが何かって言うたら自然のことやと思うんやけど。その・・・、こっちからこう土をすくって来たもんがあって、それを形に落とした違和感の無いもん。
ーー水の時も言ってた違和感の無いもん。
石田
だからそれが結局巡り巡って美味いもんやと思うんやけど。
ーー単純に味覚的に美味いだけじゃ無くて、そこの土地に素直にリンクして成立してる美味しさですよね。
石田
うん。そういう理由で無農薬とかが必要なんやって言うのは賛成。痛めてへんから。だから無農薬が要るんやってのは正しいと思うけどなぁ。


<終わります>
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by matsunotsukasa
| 2020-10-02 11:51
| 日記